令和7年度 秋期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問3 IT投資計画の監査

マネジメントシステム監査システム戦略・企画会計・財務

この問題は2025(R7)秋 システム監査技術者 午後Iに出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。

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学習ガイド

DX推進で増えるIT投資の計画とその監査を扱った問題です。経営陣の承認を急ぐあまり投資額の算定や効果検討が不十分なまま実行され、コスト超過や効果未達に至るリスクをどう監査で捉えるかが問われます。設問は投資額の見積り根拠、関係会社への支出、投資評価の仕組みなど計画から事後評価までに広がっており、この記事では投資のライフサイクルに沿って各監査手続の狙いを整理します。

この記事で押さえる論点

  • IT投資額の過小見積り・効果検討不足のリスクを識別する
  • 投資評価(効果測定)の実効性を確かめる監査手続を設計する
  • 関係会社への支出を含む投資額計上の適切性を検証する

問題本文

問3 IT投資計画の監査に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。

R社は,中堅の食料品製造・販売業者である。R社では,近年のデジタル化の波に対応して企業変革を推進するべく,新規のIT投資計画を複数策定している。監査部は,IT投資計画が適切に作成され,経営陣に十分な判断材料が提供されているかどうかをテーマにシステム監査を行うことにした。今期計画されているIT投資案件の中から経営陣からも期待が高い案件である,基幹システムとデータ連携を行う消費者向けオンラインショッピングシステム(以下,ECシステムという)の構築案件を監査対象として選定した。

〔予備調査の結果〕

監査部は予備調査として,“IT投資計画書”の閲覧,DX推進室を中心とした関係者へのインタビューを実施し,ECシステムのIT投資計画(以下,本計画という)の概要を調査した。その結果は次のとおりである。

(1) 導入目的

ECシステムは,社外から人材を採用して新設されたDX推進室がシステムオーナーとなり,営業本部及び情報システム部と協力して導入する予定である。ECサイトを構築し,販売チャネルの拡大による売上増大,販売データなどを基にした新商品開発の意思決定の迅速化を行うことによって中期経営計画で定めた売上増大及び利益率向上を図るものである。

(2) システム概要

① ECシステムは大手ベンダーS社製のECパッケージをカスタマイズして導入する予定である。ECパッケージを採用することによって標準的な機能や定期的なバージョンアップが提供され,またR社として初めてIaaS上に構築されるシステムとなる。ECシステム及び基幹システムの概要は図1のとおりである。

② ECシステムの稼働直後は,一部商品から試験的に利用を開始し,その後対象商品を拡大していく計画である。ECシステムで使用するIaaSの処理能力,ストレージ容量などのリソースは,ECシステムの対象商品及び利用者の増加に応じて増強していく予定である。

③ 既存の基幹システムはオンプレミスで開発・導入したシステムである。本計画では,IaaS上のECシステムの導入・カスタマイズ,基幹システムのデータとIaaS上のECシステムのデータを連携する機能(以下,データ連携機能という)の開発を,S社に外部委託する。

④ ECシステムと基幹システムとのデータ連携は,基幹システムの改修をできるだけ抑える方針であり,リアルタイムではなく日次のファイル連携処理で行う計画になっている。なお,基幹システム側の改修は情報システム部が行う計画であるが,情報システム部の業務が多忙であることから,改修範囲は要件定義段階で特定することになっている。

⑤ ECパッケージのカスタマイズは,R社独自の商品カテゴリの構成変更や決済方法の追加,配送条件の個別設定などが予定されている。本番稼働後に,ECシステムの利用状況や効果などを踏まえて,DX推進室と営業本部が協力して追加のカスタマイズを予定している。

図1 ECシステム及び基幹システムの概要
図の説明テキスト

上部の「IaaS」枠内に「ECシステム」と「データ連携機能(日次処理)」が配置されており、両者の間は「連携」という双方向の矢印で結ばれている。
下部の「オンプレミス」枠内に「基幹システム」が配置されており、その中に「販売管理」「在庫管理」「会計」の3つのノードが含まれている。「データ連携機能(日次処理)」と「基幹システム」の間は上下の「連携」矢印で結ばれている。
IaaS枠の外側左に「利用者」と「営業本部(PCのアイコン)」が配置されている。「利用者」は「ECシステム」と双方向矢印で結ばれ、「営業本部」からは「ECシステム」へ向かう矢印が描かれている。

(3) IT投資の評価

① R社では“投資管理規程”においてIT投資の評価基準として回収期間法を採用している。本計画の投資回収見込みは表1のとおりである。投資回収見込みによれば,データ連携機能の開発を含むECシステムの開発導入投資額と毎年のランニングコストは,計画どおりに売上増大及び利益率向上が実現すれば3年間で回収できる見込みである。R社では投資判断基準としての回収期間について5年以内を目安としており,それよりも短い期間で回収可能と評価されている。

② 開発導入投資額はS社が作成した見積り資料を基にDX推進室が算定したものである。

③ ランニングコストの内訳は,IaaSの利用料,ECパッケージの保守契約費用である。IaaSの利用料は,使用する処理能力やストレージ容量などに応じた従量制による課金となっている。ECパッケージの保守契約の対象は,サポートデスクの問合せ対応及び問題発生時の調査・対応だけである。

④ 利益増加見込みは,経営会議で報告されたR社における過去の販売実績データ及びS社が他社事例を基に作成した平均的な売上増加率に基づき,DX推進室が独自に試算したものである。ECシステムを活用した販路拡大によって見込まれる売上増大,販売データなどを基にした新商品開発による利益率向上を予測し,試算した。

⑤ ECシステムが本番稼働した1年後に,DX推進室と営業本部が本計画の投資評価を実施し,経営陣へ報告する予定である。

表1 投資回収見込み
図の説明テキスト

単位 千円

項目 本番稼働時点 稼働1年目 稼働2年目 稼働3年目
開発導入投資額 30,000 - - -
ランニングコスト - 4,500 5,000 5,500
①支出額計 30,000 4,500 5,000 5,500
②利益増加見込み(収入額) - 10,000 15,000 20,000
キャッシュフロー(②-①) ▲30,000 5,500 10,000 14,500
投資回収見込み ▲30,000 ▲24,500 ▲14,500 0
注記 本問では金利及び為替は考慮しないものとする。金額はキャッシュフローベースである。

〔本調査に向けた監査手続の検討〕

監査部は,予備調査の結果を踏まえて,本調査に向けて,次のように監査手続の検討を行っている。

(1) ECシステムはECパッケージを導入する計画となっている。システム概要で把握した内容を基にすると,ECパッケージの保守契約費用に必要な項目が網羅的に含まれていないリスクがあるので,確認する必要がある。

(2) ECシステムと基幹システムのデータ連携について,表1の開発導入投資額だけでは、支出額が低く計上されるリスクがあるので、追加の確認が必要である。

(3) ECシステムは当社として初めてIaaS上に構築するシステムであり、不正アクセスによる情報漏えいなどのリスクがある。S社のECパッケージを導入するに当たり、ECシステムの情報セキュリティ対策に漏れが生じないようにする必要がある。その観点からR社の情報セキュリティ対策に係る支出額が適切に計上されていることを確認する必要がある。

(4) 表1の利益増加見込みは、DX推進室が独自に試算した売上増大及び新商品の開発による利益率向上の実現可能性が十分に検討されていることが重要と考えられる。それについて追加の確認が必要である。

(5) ECシステムの本番稼働後における本計画の投資評価が不十分となるおそれがある。十分な投資評価が行われるのかどうかを確認する必要がある。

設問と解答・解説

設問1

〔本調査に向けた監査手続の検討〕(1)について確認すべきことを、45字以内で具体的に答えよ。

模範解答

ECパッケージのバージョンアップ及びカスタマイズ部分の改修費用が含まれていること

採点基準(配点 10点)

知識・理解度(内容)(6点)

  • 6: IT投資額の過小見積りを防ぐ観点から、「ECパッケージのバージョンアップ」と「カスタマイズ部分の改修費用」の両方が含まれていることを具体的に記述できている。
  • 3: ECパッケージのバージョンアップ、またはカスタマイズ部分の改修費用のいずれか一方にしか言及できていない。
  • 0: 無解答、またはIT投資額の確認項目として的外れな内容である。

論理性(構造)(4点)

  • 4: 確認すべきこととして、簡潔かつ論理的に意味が通る文で構成されている。
  • 2: 文意は汲み取れるが、表現が不自然である、または冗長である。
  • 0: 文として成立していない、または問いの要求(確認すべきこと)に応える形式になっていない。

解説

正解の根拠

ECサイトの再構築などを含むIT投資計画において、投資額が過小に見積もられるリスクに対応するための監査手続が問われています。
ITコストの増大要因を見落とさないためには、基本となるECパッケージのバージョンアップ費用だけでなく、既存システムで独自に追加したカスタマイズ部分の改修費用も投資額に漏れなく含まれているかを確認する必要があります。これらの改修要件が漏れていると、実行段階でのコスト超過に直結します。

高得点のポイント

  • ECパッケージのバージョンアップに伴う費用が含まれていることに言及していること。
  • カスタマイズ部分の改修費用が考慮されていることに言及していること。
  • IT投資額の過小見積りを防ぐための具体的な確認事項として構成されていること。

設問2

〔本調査に向けた監査手続の検討〕(2)について、本調査で実施すべき監査手続を、50字以内で答えよ。

模範解答

開発導入投資額の見積り資料を査閲し,基幹システムの改修に係る投資額が考慮されているか確かめる。

採点基準(配点 10点)

知識・理解度(内容)(5点)

  • 5: S社とR社の開発範囲の関係から、ITコスト増大要因となる「基幹システムの改修に係る投資額」が考慮されていることを確認する旨を明記できている。
  • 3: システムの改修費用の確認には言及しているが、対象(基幹システム等)の特定が不十分である。
  • 0: 無解答、または確認対象が不適切である。

説得力(考察)(5点)

  • 5: 「見積り資料を査閲する」などの具体的な監査証拠および監査技法が示されており、実効性のある監査手続として成立している。
  • 3: 確認すると述べているが、どのような資料を確認するか(監査証拠)や監査技法への言及が不足している。
  • 0: 監査手続としての体をなしていない。

解説

正解の根拠

S社とR社が共同して進める開発においては、システム間の連携に伴う影響範囲を正しく見積もる必要があります。
R社の開発に伴い、S社側のシステムにも改修が発生する可能性があります。そのため、基幹システムの改修に係る費用が漏れるとITコスト増大の原因となります。監査手続を策定する際は、「何を確認するのか(基幹システムの改修に係る投資額の考慮)」に加えて、「どのような監査技法・証拠を用いるか(見積り資料の査閲など)」を明示することが重要です。

高得点のポイント

  • 基幹システムの改修に係る投資額が考慮されているかに着目できていること。
  • 見積り資料の査閲など、具体的な監査証拠と監査技法を示していること。
  • 手続として「確かめる」「確認する」といった適切な結びの表現を用いていること。

設問2は、正答率が平均的であった。S社が開発する範囲とR社が開発する範囲の関係や見積り作業の実施状況から、リスクを識別し、監査手続を作成することがポイントである。また、監査手続の策定では、何を確認するのかだけではなく、どのような監査技法や監査証拠によって確かめるのかを示す必要があることを理解してほしい。

設問3

〔本調査に向けた監査手続の検討〕(3)について、R社の情報セキュリティ対策に係る支出額が適切に計上されていることを確認する上で、S社との関係でどのような点に留意すべきか。35字以内で答えよ。

模範解答

R社の情報セキュリティ対策の責任範囲が明確になっていること

採点基準(配点 10点)

知識・理解度(内容)(6点)

  • 6: S社とR社の間で、情報セキュリティ対策の「責任範囲が明確になっていること」を正確に指摘できている。
  • 3: セキュリティ対策の分担に類する言及はあるが、「責任範囲の明確化」という根本的な前提に踏み込めていない。
  • 0: 無解答、または全く異なる点に留意している。

論理性(構造)(4点)

  • 4: 留意点として、簡潔で論理的な文で構成されている。
  • 2: 意味は通じるが、文脈や表現がやや不自然である。
  • 0: 文として成立していない。

解説

正解の根拠

R社の情報セキュリティ対策に係る支出額が適切に計上されているかを確認するためには、まず大前提としてS社とR社間での対策の責任範囲が明確に切り分けられている必要があります。
責任範囲が曖昧なままだと、必要な対策費用が漏れてIT投資額の過小見積りに繋がったり、逆に重複して過大計上されたりするリスクが生じます。この前提条件に着目できるかが問われています。

高得点のポイント

  • S社とR社の間で、情報セキュリティ対策の責任範囲が明確になっていることに言及していること。
  • 留意すべき点として、端的に回答がまとめられていること。

設問3は、正答率が平均的であった。S社との関係でR社の情報セキュリティ対策に漏れがないように支出額を適切に計上するためには、R社の情報セキュリティ対策に関する責任範囲が明確となっていることが前提であることを理解してほしい。

設問4

〔本調査に向けた監査手続の検討〕(4)について、本調査で実施すべき監査手続を、40字以内で答えよ。

模範解答

営業本部にインタビューし,試算結果の妥当性を確認していることを確かめる。

採点基準(配点 10点)

知識・理解度(内容)(5点)

  • 5: DX推進室の独自試算のリスクを踏まえ、当事者である「営業本部」に対して「試算結果の妥当性」を確認していることに言及できている。
  • 3: 営業本部への確認は記述されているが、試算結果の妥当性・実現可能性という目的が不明確である。
  • 0: 無解答、または確認先や内容が不適切である。

説得力(考察)(5点)

  • 5: 「インタビューする」等の具体的な監査技法が示され、実効性のある監査手続として成立している。
  • 3: 確認する旨の記載はあるが、監査技法(インタビュー等)の具体性に欠ける。
  • 0: 監査手続としての体をなしていない。

解説

正解の根拠

新設されたDX推進室が独自に試算した利益率向上の実現可能性については、計画段階での投資対効果の検討不足というリスクをはらんでいます。
実態に即した妥当な試算となっているかを確認するためには、当事者であり実際の業務を担う営業本部に対して、試算結果の妥当性を確認しているかを確かめる必要があります。手続としては、インタビューなどの手段を明記することが求められます。

高得点のポイント

  • 試算結果の妥当性(実現可能性)について、当事者である営業本部に確認していることに言及していること。
  • インタビューなどの具体的な監査技法を明記し、確かめる手続として記述していること。

設問4は、正答率が平均的であった。社外からの人材を採用して新設されたDX推進室が独自に試算した利益率向上の実現可能性について、当事者である営業本部がどこまで確認しているのかが重要である点に気が付いてほしい。

設問5

〔本調査に向けた監査手続の検討〕(5)について、十分な投資評価を行うために必要と考えられることを、35字以内で答えよ。

模範解答

本番稼働した2年後以降についても投資対効果の評価を行うこと

採点基準(配点 10点)

知識・理解度(内容)(6点)

  • 6: IT投資の十分な評価のために、「本番稼働した2年後以降」という具体的な中長期の期間に言及できている。
  • 3: 稼働後の一定期間における評価の必要性には言及しているが、「2年後以降」といった具体性に欠ける。
  • 0: 無解答、または全く異なる内容である。

論理性(構造)(4点)

  • 4: 「投資対効果の評価を行うこと」など、必要と考えられる事項として自然な構成で記述されている。
  • 2: 文意は汲み取れるが、表現が不明瞭、または冗長である。
  • 0: 回答として成立していない。

解説

正解の根拠

IT投資計画において効果の検討不足を防ぐためには、システム稼働直後の短期的な効果を見るだけでなく、中長期的な評価を実施することが不可欠です。
一般にシステム稼働直後は一時的なコスト増や運用定着までの混乱が見込まれるため、投資効果が安定して現れる2年後以降についても継続して投資対効果の評価を行うことが、十分な投資評価に繋がります。

高得点のポイント

  • 本番稼働した2年後以降という時期に具体的に言及していること。
  • その期間においても継続して投資対効果の評価を行う必要性を示していること。