令和4年度 秋期 システム監査技術者試験 午後Ⅰ 問1 改正個人情報保護法へのシステム対応の監査
学習ガイド
オンラインショッピングを運営する会社を対象に、令和4年施行の改正個人情報保護法へのシステム対応を監査する問題です。仮名加工情報・個人関連情報の扱い、短期保存データの消去、位置情報による個人識別のリスク、ログ監視機能の設定、開示データのダウンロード経路の制御について、本調査の指摘事項を法改正の要件と対応付けて読み解きます。
この記事で押さえる論点
- 仮名加工情報と個人関連情報の定義と、利用目的の制限や第三者提供の扱いの違いを説明できる
- 短期保存データが保有個人データとみなされることによる消去機能の要件と、一部システムで漏れた原因を把握できる
- 位置情報の蓄積で特定の個人を識別できてしまうリスクを個人関連情報の要件から指摘できる
- ログ管理システムの監視・アラート機能の設定不備や、開示データのダウンロードページのディレクトリトラバーサルを是正する監査意見を組み立てられる
出題情報
- 出題
- 2022(R4)秋 システム監査技術者 午後I 問1
- 配点
- 50点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
令和4年4月の改正個人情報保護法の施行によって,個人情報の保護に関する国際的動向及び情報通信技術の進展を踏まえ,個人情報を活用した新たな産業の創出及び発展への対応が図られることになった。事業者は,法改正による恩恵を受ける一方で,法改正への適切な対応が必要となる。本問では,システム監査人に必要な,個人情報の活用に伴って発生するリスクの知識,リスクの程度に応じたコントロールを識別する能力,それらのコントロールの有効性を検証するために必要な監査手続と監査証拠を選択する能力を問う。
問1では,個人情報保護の監査を題材に,法改正による個人情報の活用に伴って生じるリスク,法改正への適切な対応としてのコントロールの識別,コントロールの適切性を確認するための監査手続及び必要な監査証拠について出題した。全体として正答率は平均的であった。
問題本文
個人情報保護の監査に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A社は,自社商品をオンラインショッピングサイト(以下,ショッピングサイトという)で販売する中規模の会社である。
〔A社が取り扱う情報〕
A社は,利用者がショッピングサイトで会員登録を行う際に,住所,氏名,年齢,性別,電話番号,電子メールアドレスなどの個人情報を収集し,会員サービスの提供などに活用している。また,令和4年4月に全面施行された改正個人情報保護法(以下,改正法という)で新たに定められた“仮名加工情報”及び“個人関連情報”については,マーケティング用のデータ分析に活用している。
〔仮名加工情報及び個人関連情報の活用〕
仮名加工情報は,他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように個人情報を加工した情報である。特定の個人の識別及び当該個人情報の復元ができないように加工した匿名加工情報に比べ,より元の個人情報に近い内容をもつ。個人情報ではない仮名加工情報であれば,社内で利用する場合には収集時の利用目的に拘束されないことから,A社は,会員情報を基にした仮名加工情報を,会員の特徴を把握するためのプロファイリングに活用している。
個人関連情報は,生存する個人に関する情報であって,個人情報,匿名加工情報及び仮名加工情報のいずれにも該当しない情報である。氏名と直接結び付かない電子メールアドレス,Cookieによる収集情報などが該当する。A社は,スマートフォンからショッピングサイトを利用できるアプリケーションソフトウェアを無償で提供しており,同アプリケーションソフトウェアを利用した場合には,利用時間,閲覧履歴,購買履歴に加え,GPSによる位置情報も行動データの一部として収集される。A社は,行動データに固有の番号を割り当てて特定の会員を識別できないようにし,行動特性分析に活用している。
〔個人情報を取り扱うシステム〕
ショッピングサイトで収集した個人情報は,同サイトと連携してオンラインショッピングシステムを構成する受注管理,出荷管理,顧客管理,広告配信などの各社内システム(以下,バックヤードシステムという)に保存される。これらの個人情報は,受注内容の確認,商品の配送,キャンペーンの通知などに活用されている。
また,A社は,会員からの開示請求への適切な対応を重視し,改正法で開示などの対象とされる個人データ(以下,保有個人データという)を開示用にバックヤードシステムから抽出して構成するための開示請求対応システムを構築している。同システムのユーザーマニュアルには,バックヤードシステム内の保有個人データの保存場所,保有個人データの抽出申請手続などが記載されている。また,改正法を受けて,保有個人データ及び同データの第三者提供記録を開示用の電磁的記録(以下,開示データという)として構成する方法が追加されている。
A社は,システム部門と業務部門が共同で,法務部門とも連携し,オンラインショッピングシステム及び開示請求対応システムにおいて改正法に基づく対応を行ってきた。
〔A社オンラインショッピングシステムの概要〕
バックヤードシステムは,ショッピングサイト経由の注文受付及び会員への広告配信のほか,配送業者との配送情報の相互連携,コールセンターからのオンライン照会に対する回答にも利用されている。
A社オンラインショッピングシステムの概要を図1に示す。

図の説明テキスト
会員、A社、および業務委託先間のデータの流れを示すシステム構成図。
・会員はA社の「ショッピングサイト」とデータを送受信する。
・A社内には「オンラインショッピングシステム」と「開示請求対応システム」がある。
・オンラインショッピングシステムは「ショッピングサイト」と「バックヤードシステム(一部)」で構成される。
・ショッピングサイトは「ログ管理」「データ分析」「問合せ管理」と双方向でデータを送受信する。
・バックヤードシステム(一部)内には「受注管理」「出荷管理」「顧客管理」「広告配信」機能が含まれる。
・ショッピングサイトからバックヤードシステムへデータが送信され、バックヤードシステムからショッピングサイトへは「広告配信」データが送信される。
・外部の業務委託先である「コールセンター」はバックヤードシステムと「データ送受信」を双方向で行う。
・外部の業務委託先である「配送業者」はバックヤードシステムからデータを受信する。
・開示請求対応システムはバックヤードシステムへデータを送信する。
注記: 矢印はデータの流れを示す。
〔システム監査の実施〕
内部監査部長は,年度監査計画に基づき,オンラインショッピングシステム及び開示請求対応システムを監査対象として,改正法に基づくシステム対応の状況についてシステム監査を行うよう,システム監査チームに指示した。
〔予備調査の結果〕
システム監査チームは,予備調査を実施し,改正法による影響及びそれに伴って実施されたシステム対応の内容を表1にまとめた。

図の説明テキスト
| 項番 | 改正法による影響 | システム対応の内容 |
|---|---|---|
| 1 | 会員からの開示請求時に電磁的記録での提供を求められた場合,要求に応じる必要があること | [バ]:保有個人データは,電磁的記録として保存されており,対応不要 [開]:保有個人データを開示データとして構成する機能の追加 [シ]:会員が開示データをダウンロードできるようにする機能の追加 |
| 2 | 会員からの開示請求時に第三者提供記録の提供を求められた場合,要求に応じる必要があること | [バ]:保有個人データの第三者提供記録は,既に機能が実装されており,対応不要 [開]:保有個人データの第三者提供記録を開示データとして構成する機能の追加 |
| 3 | 取得後6か月以内に消去する短期保存データも保有個人データとみなされ,会員への開示データに含める必要があること | [バ]:取得後6か月以内でも a を消去する機能の追加 [開]:短期保存データを開示データとして構成する機能の追加 |
注記 表中の[バ]はバックヤードシステム,[開]は開示請求対応システム,[シ]はショッピングサイトである。
〔本調査の結果〕
システム監査チームは本調査の結果として,指摘事項を次のように整理した。
(1) 消去した短期保存データのリストを他の監査証拠と突合したところ,一部のバックヤードシステムで短期保存データが適時に消去されていなかった。バックヤードシステム内に保存されている,短期保存データを含めた全保有個人データのリストは,保有個人データ管理データベースで取得日,保存期限などを付して管理されている。これまで短期保存データは,取得日に基づいて一律に取得後6か月で自動的に消去されていた。改正法によって,短期保存データも保有個人データとみなされることになり,保存期限に応じて適時に消去する機能の追加が行われたが,一部のバックヤードシステムで対応が漏れていたことが原因である。
(2) A社が収集している個人関連情報には,位置情報を含むものがある。それぞれでは特定の個人を識別できないが,蓄積された一連の位置情報に含まれる共通の内容が特定の個人の特徴を示すケースが見られ,氏名と結び付けずに特定の個人を識別できる可能性がある。
(3) バックヤードシステム内の,業務委託先とデータ送受信を行うシステムについては,ログ管理システムによってアクセスログ及び操作ログが取得され,一定期間保存されている。しかし,ログ管理システムがもつ,イベントの監視機能,異常検知時のアラート機能,ログの分析機能,分析結果のレポート機能などのうち,一部の機能の設定が適切に行われておらず,個人情報漏えいの兆候及び発生をすぐに発見できない状態であった。
(4) 開示請求対応システムで構成された開示データについては,請求した会員がダウンロードできるように,ショッピングサイト内の同会員専用ページにダウンロードページへのリンクが表示される。しかし,ダウンロードページでアドレスを書き換えることで上位ディレクトリにもアクセスできる状態であった。
また,ダウンロードが正常に終了すると,その記録が保存されるが,ダウンロードページには有効期限の表示がなく,開示データにも消去期限が設定されていなかった。このため,開示済みの開示データが消去されないままの状態であった。
設問と解答・解説
設問1
〔本調査の結果〕(1)について答えよ。
当該指摘を行うに当たり,消去した短期保存データのリストと同時にシステム監査チームが入手したと考えられる監査証拠を,35字以内で答えよ。
模範解答
全短期保存データのリストから保存期限を過ぎたものを抽出したリスト
採点基準
- 3点: 消去対象が「全短期保存データ」から「保存期限を過ぎたもの」を抽出したものであることが明確に示されている。
- 1点: 対象のデータが部分的、または条件が不正確である(例:「保有個人データ」としているなど)。
- 0点: 全く見当違い、または解答がない。
- 3点: 字数制限内で、監査証拠のリストとして適切に構成されている。
- 1点: 意味は通じるが、表現が不自然または冗長である。
- 0点: 意味が不明瞭である。
解説
解答の根拠
消去すべき短期保存データが漏れなく消去されていることを検証するためには、「消去されたデータのリスト」と「本来消去されるべきデータのリスト」を突き合わせる必要があります。
「本来消去されるべきデータのリスト」は、全短期保存データのリストから保存期限を過ぎたものを抽出したリストとして特定できます。全保有個人データのリストまでは不要であることに注意してください。
高得点のポイント
- 対象データが「全短期保存データ」であることを明記していること
- 「保存期限を過ぎたもの」という条件を正確に指定していること
表1中の a に入れる適切な字句を,20字以内で答えよ。
模範解答
保存期限を迎えた短期保存データ
採点基準
- 3点: 「保存期限を迎えた」「短期保存データ」の両方の要素が正しく含まれている。
- 1点: どちらか一方の要素のみが含まれている。
- 0点: 不適切なデータ区分である。
- 3点: 表の文脈に沿って、適切な名詞句で構成されている。
- 1点: 文脈にややそぐわない表現が含まれる。
- 0点: 文意が通らない。
解説
解答の根拠
表の文脈において、消去されるべき対象データが何かを特定する問題です。短期保存データのうち、保存期限を超過したデータが消去対象となります。したがって、空欄には保存期限を迎えた短期保存データが入ります。
高得点のポイント
- 「保存期限を迎えた」という条件が含まれていること
- 「短期保存データ」であることが明記されていること
設問1(i)は,正答率がやや低かった。消去すべき短期保存データが漏れなく消去されていることを確認するためには,消去済みの短期保存データのリストのほかに,消去対象の全短期保存データのリストがあれば十分であり,全保有個人データのリストは不要であることを理解してほしい。
設問2
〔本調査の結果〕(2)について,システム監査チームは,どのような事項を確認して,特定の個人を識別できる可能性があると考えたか。システム監査チームが確認対象とした監査証拠を15字以内で,確認事項を20字以内で答えよ。
確認対象とした監査証拠を15字以内で答えよ。
模範解答
蓄積された一連の位置情報
採点基準
- 3点: 「蓄積された」「一連の」「位置情報」という必要な監査証拠の要素が全て含まれている。
- 1点: 要素が一部欠落している(例:「位置情報」のみなど)。
- 0点: 誤った監査証拠が指定されている。
- 3点: 字数制限以内で、簡潔な名詞句としてまとまっている。
- 1点: 指定された範囲内だが、やや不自然な表現。
- 0点: 意味が通じない。
解説
解答の根拠
位置情報から特定の個人を識別できる可能性を探る際、単発の位置情報ではなく、継続的に収集されたデータが鍵となります。確認対象とする監査証拠は、単なる位置情報ではなく蓄積された一連の位置情報です。
高得点のポイント
- 監査証拠として「位置情報」を挙げていること
- それが「蓄積された一連の」ものであることを示していること
確認事項を20字以内で答えよ。
模範解答
同じ位置情報が複数存在すること
採点基準
- 3点: 「同じ位置情報」が「複数存在する」という個人特定につながる観点が明確に示されている。
- 1点: 位置情報に関する確認事項であることは分かるが、複数や同一性の観点が不足している。
- 0点: 監査の確認事項として不適切である。
- 3点: 字数制限以内で、「〜こと」など確認事項として適切な文末で結ばれている。
- 1点: 確認事項としての体裁にやや難がある。
- 0点: 文意が通じない。
解説
解答の根拠
蓄積された一連の位置情報を分析し、同じ位置情報が複数存在することを確認することで、その場所が本人の自宅や勤務先などであり、個人を特定可能となるリスクを見出すことができます。監査証拠からどのような観点で確認すべきか、論理的に導くことが求められます。
高得点のポイント
- 「同じ位置情報」に着目していること
- それらが「複数存在する」という状況を明記していること
設問2は,“確認事項”について正答率が低かった。入手すべき“監査証拠”は理解できていると思われるので,指摘事項を導くためには,監査証拠を用いてどのような観点で確認すべきかを理解してほしい。
設問3
〔本調査の結果〕(3)について,システム監査チームが考えた,当該状況を改善するために,ログ管理システムでの対応が必要な機能を二つ答えよ。
模範解答
監視機能
アラート機能
採点基準
- 8点: 監視機能とアラート機能(または同等の機能)の両方が明確に挙げられている。
- 6点: 2つの機能が挙げられているが、一方の目的がやや不正確である。
- 4点: 監視機能またはアラート機能のどちらか1つのみ挙げられている。
- 2点: 関連するログ管理の機能は挙げられているが、設問の改善状況に完全に合致しない。
- 0点: 不適切な機能、または無回答。
- 6点: 要求通りに2つの機能が簡潔かつ独立して提示されている。
- 3点: 意図は理解できるが、機能の名称として不自然な表現である。
- 0点: 構成が不明瞭であり、機能として読み取れない。
解説
解答の根拠
ログ管理システムを用いて問題発生や不正アクセスの兆候を早期に発見・対応するためには、常時ログを監視する監視機能と、異常な状態を検知した際に管理者に通知するアラート機能の両方が不可欠です。
高得点のポイント
- ログの異常を検知するための「監視機能」に言及していること
- 検知時に通知を行うための「アラート機能」に言及していること
設問4
〔本調査の結果〕(4)について答えよ。
ダウンロードページ経由で上位ディレクトリにアクセスできることについて,システム監査チームが想定したリスクを,45字以内で答えよ。
模範解答
上位及びその下位ディレクトリに保存されている情報が窃取され,漏えいするリスク
採点基準
- 3点: 上位及び下位ディレクトリ内の情報が「窃取」「漏えい」するリスクが正確に指摘されている。短期保存データと開示データの混同がない。
- 1点: リスクの対象(上位・下位ディレクトリ)または結果(窃取・漏えい)の記載が不十分である。
- 0点: 誤ったリスク認識、または不適切な解答。
- 3点: 字数制限以内で、「〜リスク」として自然に構成されている。
- 1点: 意味は通じるが、文のつながりがやや不自然である。
- 0点: 意味が不明瞭である。
解説
解答の根拠
ディレクトリトラバーサルなどの脆弱性により、アクセス権のない上位ディレクトリや、そこから派生する下位ディレクトリに保存されている情報(短期保存データや他の開示データなど)へアクセスされる危険性があります。リスクとしては情報の窃取と漏えいを明記する必要があります。
高得点のポイント
- リスクの対象が「上位及びその下位ディレクトリに保存されている情報」であること
- 影響として「窃取され、漏えいするリスク」を挙げていること
- 短期保存データと開示データを混同していないこと
システム監査チームが考えた,開示済みである開示データの最も適切な消去のタイミングを,45字以内で答えよ。
模範解答
会員による開示データのダウンロードが正常に終了した記録が保存されたタイミング
採点基準
- 3点: 会員のダウンロードが「正常に終了した記録が保存された」タイミングであることが明記されている。
- 1点: 「ダウンロード終了時」など、記録が保存されたという条件が不足している。
- 0点: 不適切なタイミングが指定されている。
- 3点: 字数制限以内で、「〜タイミング」として論理的にまとまっている。
- 1点: 表現に曖昧さが残る。
- 0点: 文意が通じない。
解説
解答の根拠
開示データの利用目的が完了した直後にデータを消去することが最も適切です。具体的には、会員がダウンロードを正常に完了し、その記録が保存されたタイミングとなります。単なる「ダウンロード終了時」ではなく、監査証拠として記録が保存されたことを条件に含めることが重要です。
高得点のポイント
- 「会員による開示データのダウンロードが正常に終了した」ことを挙げていること
- 単なる終了時ではなく「記録が保存されたタイミング」であることを明記していること
設問4(ⅱ)は,正答率が平均的であった。短期保存データと開示データを混同していると思われる解答が散見された。本文中の各データの定義と利用目的を正確に把握してほしい。