令和6年度 秋期 応用情報技術者試験 午後問題 問9 DXプロジェクトのチーム編成とリスク管理
マネジメントステークホルダー・要員リスクマネジメントプロジェクト計画
この問題は2024(R6)秋 応用情報技術者 午後に出題されたものです。出題時点の法令・制度に基づく内容のため、現行の内容と一致しない場合があります。
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学習ガイド
電気機器メーカーの新サービス立上げプロジェクトを題材に、ステークホルダマネジメントとリスクマネジメントを問うプロジェクトマネジメント分野の問題です。リスク対応戦略を漢字2字で答えさせるなど、用語の正確な知識と本文の状況を結び付ける力が求められます。この記事では、登録簿の記載からどの関与行動・対応戦略を選ぶべきかの判断基準を整理し、字数内に収める要約の組み立て方も示します。
この記事で押さえる論点
- ステークホルダ登録簿から適切な関与方針を選ぶ考え方を理解する
- リスク登録簿の転嫁・回避など対応戦略の用語を2字で言い当てる
- プロジェクト特性(市場面・製品面)を制約字数で要約する技術を磨く
出題情報
- 出題
- 2024(R6)秋 応用情報技術者 午後 問9
- 配点
- 20点満点
- 模範解答
- 公表(設問ごとに掲載)
出題趣旨・採点講評(IPA 公表)
昨今,DXプロジェクトに取り組む企業が増えている。DXプロジェクトでは従来型のプロジェクト計画に加えて,新たな観点のプロジェクト計画が必要である。特に,新事業開発を実現するプロジェクトではビジネスや業務の変革の目標を設定した上で,ステークホルダの役割分担を定義することが不可欠である。
本問では,電気機器メーカーの新たなサービスを実現するプロジェクト計画の作成を題材として,プロジェクトマネジメントの観点から,プロジェクト遂行に必要なチームの編成やリスクマネジメントに関する知識と応用能力を問う。
問9では,電気機器メーカーの新たなサービスを実現するプロジェクト計画の作成を題材に,プロジェクトマネジメントの観点から,プロジェクト遂行に必要なチームの編成やリスクマネジメントについて出題した。全体として正答率は平均的であった。
問題本文
問9 電気機器メーカーの新たなプロジェクトに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A社は,大手の電気機器メーカーである。主力製品は,製造現場で用いられるIoTセンサーなどの機器である。製造業向けの産業機械市場に機器を提供する事業で成長してきたが,近年,成長の速度が鈍化している。そこで,研究開発していた生体センサーを核にして消費者向けのヘルスケア市場に新たなサービスを提供する新事業に進出することにした。
新事業を推進するヘルスケア事業開発部(以下,事業開発部という)を設立して,新たなサービスの事業可能性を検証するためのプロジェクト(以下,本プロジェクトという)を立ち上げることになった。昨年から始まったA社の中期事業計画では,製品開発やM&Aなどを通じて,5年後には事業開発部の売上高比率を全社の20%程度までに拡大し,主力事業の一つにする計画である。
〔ヘルスケア事業の概要と本プロジェクトの位置付け〕
(1) ヘルスケア事業の概要は次のとおりである。
- 今後,成長が見込まれる消費者向けのヘルスケア市場に進出し,高齢化に伴う未病対策といった健康増進に関わるサービスを提供することを目的とする。
- 消費者向けに機器に加えてサービスを提供するために,小規模ながらUX/UIデザインに定評のあるWeb開発会社のT社を買収し事業開発部に吸収した。
- 医療機器製造業で健康増進に関わるサービスへの進出を計画しているR社と事業提携の交渉をしている。R社の事業部長S氏は提携に消極的だが,当面はA社に協力するようR社経営層から指示されている。
- 最初のサービスとして,脈拍,血圧,体温などのバイタルデータを活用して運動を促す行動変容サービス(以下,新サービスという)を提供する。
(2) 本プロジェクトの位置付けは次のとおりである。
- 生体センサーと連携した消費者向けのWebシステムを開発して新サービスを実現し,事業可能性を検証する。
- 本プロジェクトはA社の取締役会で承認され,事業開発部とシステム部の両方を管掌するB取締役がプロジェクトスポンサーとなり,プロジェクトマネージャにはシステム部のC課長が任命された。
- A社のシステム部,旧T社のメンバーを含む事業開発部及び派遣契約で参加するR社のメンバーでプロジェクトチームを編成する。
- 新サービスの事業可能性を,他社の健康増進サービスの利用経験者を含む20名の先進的なユーザー(以下,先進ユーザーという)に参加してもらって検証する。
〔本プロジェクトの立ち上げ〕
A社ではこれまで多くのプロジェクトを立ち上げてきたが,いずれも産業機械市場への機器の提供に付随するシステム開発プロジェクトであった。C課長は,本プロジェクトの立ち上げに際して,次のことを考慮してプロジェクト計画を作成する必要があると考えた。
- 本プロジェクトは,①A社でこれまでに実施してきたプロジェクトとは異なる市場面及び製品・サービス面の特性をもつ。
- これまで一緒に作業をしたことがない先進ユーザー,R社からの派遣社員及び旧T社のメンバーが参加する。
- 新市場に新サービスを提供するので,本プロジェクトには新たな視点での目標設定が必要である。そこで,旧T社のメンバーにもヒアリングした結果,顧客中心の考え方に基づいて,顧客への体験価値の提供を,本プロジェクトで最優先に達成する目標に設定した。
- 事業可能性を高めるためには,先進ユーザーに参加してもらった上で,体験価値を確実に実現できるまで仮説検証プロセスを反復してから新サービスを開始する必要がある。
- R社のS氏は,本プロジェクトの成否や成果に強い関心をもっており,新事業が順調に立ち上がれば,提携に積極的な態度に変わるものと期待できる。
〔プロジェクト計画の作成〕
C課長は,影響力の大きい社外のステークホルダを特定し,表1のとおり社外のステークホルダ登録簿を作成した。なお,A社内のステークホルダのプロジェクトに対する姿勢はいずれも“支持する”である。

図の説明テキスト
表1 社外のステークホルダ登録簿
| 項番 | ステークホルダ | 役割 | プロジェクトに対する姿勢 |
|---|---|---|---|
| 1 | 先進ユーザー | 仮説検証プロセスに参加して,事業可能性を検証する。 | 支持する |
| 2 | R社のS氏 | R社のヘルスケア事業を企画していて,事業提携の交渉相手となる。 | ②抵抗する |
次に,C課長は,本プロジェクトチームのメンバーが担う役割と本プロジェクトへの貢献についての認識を,表2のとおり整理した。C課長は,各メンバーが本プロジェクトへの貢献についての認識に基づいて活動できれば,本プロジェクトの目標は達成できると考えた。一方,各メンバーは,本プロジェクトでの活動について,他のメンバーとの協働やこれまでの作業環境との違いなどに不安を感じていることが分かった。

図の説明テキスト
表2 メンバーが担う役割及び本プロジェクトへの貢献についての認識
| 項番 | 役割名 | 役割 | 本プロジェクトへの貢献についての認識 | 担当 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ビジネスアーキテクト(新事業開発者) | 新事業の目的の実現に向けて,新サービスの提供方法を策定した上で,ステークホルダと協力関係を築き,本プロジェクトのスコープの確定と成果の評価を行う。 | ビジネスモデルを設計し,ビジネス視点での提供価値を明確化する。 | 事業開発部の部員及びR社からの派遣社員 |
| 2 | UX/UI デザイナー | 新サービスの体験価値実現のプロセスを設計する。 | 新サービスの設計や,機能,情報の配置,外観,利用性(ユーザビリティ)のデザインで体験価値を実現する。 | 事業開発部の部員(旧T社出身) |
| 3 | データサイエンティスト | 新サービスでのデータ活用を主導する。 | データ活用によって新サービスの体験価値を拡大する。 | システム部の部員2名 |
| 4 | ソフトウェアエンジニア | 新サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を行う。 | 新サービスを提供するためのソフトウェアの機能の実現及び開発・運用環境の整備を行う。 | システム部の部員2名 |
C課長は,本プロジェクトで,③アジャイル開発アプローチを採用することにした。
〔リスクマネジメント計画〕
C課長は,PMBOKガイド第7版に基づき,表3のとおり本プロジェクトへの影響が大きいリスクを特定し,リスクへの対応戦略とそれに基づく対応策をリスク登録簿に設定した。

図の説明テキスト
表3 リスク登録簿(抜粋)
| 項番 | リスク | リスクへの対応戦略 | リスクへの対応策 |
|---|---|---|---|
| 1 | ビジネス上の意思決定についてR社経営層との調整が難航し,R社からの派遣社員が活動できず,プロジェクトの進捗が遅れる。 | a | B取締役,R社経営層及びS氏の参集する場(ステアリングコミッティ)を作り,意思決定が遅れないようにする。 |
| 2 | 先進ユーザーが提示する新サービスの体験価値実現に対する要件が収束せず,サービス開始日までに開発が完了しない。 | b | サービス開始日を延期して,要件が収束するまで開発を継続する。これに対応するための予備費を確保しておく。 |
| 3 | 各メンバーが,他のメンバーとの協働やこれまでの作業環境との違いなどに不安を感じていて,これによって本プロジェクトの目標が達成できない。 | (省略) | ④メンバーの活動を阻害する不安要因を排除して,メンバーが活動しやすい環境を作る。 |
C課長が,作成したプロジェクト計画をB取締役に報告したところ,“cが本プロジェクトの最優先の目標なので,特に,表3項番2を注視するように”と指示を受け,承認を得た。
設問と解答・解説
設問1
〔本プロジェクトの立ち上げ〕について答えよ。
(1)
本文中の下線①について,市場面の特性を20字以内で答えよ。
模範解答
消費者向けのヘルスケア市場に進出
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 「消費者向け」と「ヘルスケア市場」の両方の要素を含み、市場面の特性を正しく記述している。
- 1点: 「消費者向け」または「ヘルスケア市場」のいずれか一方の要素のみが含まれている。
- 0点: いずれの要素も含まれていない、または市場面の特性として不適切な記述となっている。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文脈が自然であり、意味が明確に通る記述となっている。
- 0点: 文脈が不自然であり、文として意味が通らない。
解説
本プロジェクトにおいて従来型の事業計画とは異なる新たな観点として、消費者向けのヘルスケア市場への進出という市場面の特性が問われています。
従来のB2BビジネスからB2C(一般消費者向け)へターゲットを移し、さらにそれがヘルスケア領域であることが重要なポイントです。
高得点のポイント
- 消費者向け(あるいはB2C)に展開する事業であることが明記されていること
- ターゲットがヘルスケア市場であることが示されていること
(2)
本文中の下線①について,製品・サービス面の特性を20字以内で答えよ。
模範解答
健康増進に関わるサービスの提供
採点基準(配点 3点)
知識・理解度(内容)(2点)
- 2点: 「健康増進」と「サービスの提供」の両方の要素を含み、製品・サービス面の特性を正しく記述している。
- 1点: 「健康増進」または「サービスの提供」のいずれか一方の要素のみが含まれている。
- 0点: いずれの要素も含まれていない、または不適切な記述となっている。
論理性(構造)(1点)
- 1点: 文脈が自然であり、意味が明確に通る記述となっている。
- 0点: 文脈が不自然であり、文として意味が通らない。
解説
新事業における製品・サービス面の特性として、単なるハードウェア(機器)の提供にとどまらず、健康増進に関わるサービスを提供することが挙げられます。
顧客に対してどのような価値を提供するのか、その本質を捉える必要があります。
高得点のポイント
- 健康増進というサービスの目的が正しく記述されていること
- 製品ではなくサービスの提供であることが明記されていること
設問2
〔プロジェクト計画の作成〕について答えよ。
(1)
表1中の下線②について,C課長が,S氏に対してとるべきステークホルダマネジメントとしての最も適切な行動を,解答群の中から選び,記号で答えよ。
模範解答
選択肢イ: 適宜プロジェクトの進捗と成果を報告する。
配点 2点
解説
ステークホルダマネジメントにおいて、主要な関係者であるS氏に対しては、プロジェクトの状況を透明性をもって共有し、適切な関係を維持することが不可欠です。
適宜プロジェクトの進捗と成果を報告することで、期待値を調整し、協力を得やすくなります。
各選択肢の解説
- ア: R社との事業提携の交渉を打ち切ることは、新事業開発というプロジェクトの目的そのものに反するため誤りです。
- イ: 適宜プロジェクトの進捗と成果を報告することは、ステークホルダとのエンゲージメントを高める基本行動であり、これが正解です。
- ウ: 情報を秘匿しコミュニケーションを避けることは、ステークホルダの不信感を招き、プロジェクトの重大なリスクとなるため誤りです。
- エ: 報告を最低限にとどめると、状況の共有が不十分となり、ステークホルダとの適切な信頼関係を構築できないため不適切です。
(2)
本文中の下線③を実施する背景は何か。本文中の字句を用いて30字以内で答えよ。
模範解答
サービス開始までに仮説検証プロセスの反復が必要だから
採点基準(配点 4点)
正確性(内容)(4点)
- 4点: 本文中から「サービス開始までに仮説検証プロセスの反復が必要だから」という内容を過不足なく正確に抜き出している。
- 2点: 該当箇所を抜き出しているが、一部不要な文字が含まれている、あるいは文末の処理が指定通りでないなどの軽微な不備がある。
- 0点: 該当箇所を抜き出せていない、または全く異なる内容を解答している。
解説
アジャイル開発アプローチを採用する背景には、不確実性の高い新事業開発において、サービス開始までに仮説検証プロセスの反復が必要であるという要件があります。
従来型のウォーターフォール開発では対応が難しい要件変更に柔軟に対応できる点が求められています。
高得点のポイント
- 「サービス開始までに」という期限やプロセスの区切りが示されていること
- 「仮説検証プロセスの反復が必要」というアジャイル開発特有の背景が、本文の字句を用いて正確に抜き出されていること
設問2(2)は,正答率がやや高かった。アジャイル開発アプローチについて,内容を理解するだけでなく,それが使われる背景も含めて正しく把握した上で,正答を導き出してほしい。
設問3
〔リスクマネジメント計画〕について答えよ。
(1)
表3中のaに入れる適切な字句を2字で答えよ。
模範解答
軽減
採点基準(配点 2点)
正確性(内容)(2点)
- 2点: 「軽減」と完全に一致している。
- 1点: 意味は推測できるが、誤字などにより指定の字句と完全には一致していない(原則として使用されない)。
- 0点: 全く異なる字句を解答している。
解説
リスク対応戦略の一つとして、リスクが発生する確率や、発生した場合のマイナスの影響度を許容可能なレベルにまで下げる対応を 軽減 と呼びます。
高得点のポイント
- リスクマネジメントにおける標準的な用語である「軽減」を正しく解答していること
(2)
表3中のbに入れる適切な字句を2字で答えよ。
模範解答
受容
保有
採点基準(配点 2点)
正確性(内容)(2点)
- 2点: 「受容」または「保有」と完全に一致している。
- 1点: 意味は推測できるが、誤字などにより指定の字句と完全には一致していない(原則として使用されない)。
- 0点: 全く異なる字句を解答している。
解説
リスク対応戦略において、あえて積極的な対策をとらず、リスクが発生した際の影響を受け入れるとする対応を 受容(または 保有)と呼びます。
高得点のポイント
- リスクマネジメントにおける標準的な用語である「受容」または「保有」を正しく解答していること
(3)
表3中の下線④について,C課長が,この対応策によってリスクへの対応ができると考えた理由は何か。本文中の字句を用いて40字以内で答えよ。
模範解答
各メンバーが本プロジェクトへの貢献についての認識に基づいて活動できるから
採点基準(配点 2点)
正確性(内容)(2点)
- 2点: 本文中から「各メンバーが本プロジェクトへの貢献についての認識に基づいて活動できるから」を正確に抜き出している。
- 1点: 抜き出し箇所は概ね合っているが、一部の文字が欠落しているか、不要な文字が含まれている。
- 0点: 全く異なる箇所を抜き出している。
解説
多様な役割をもつメンバーが参画する新事業プロジェクトでは、各自の役割と目標を明確にすることが不可欠です。
この対応により、各メンバーが本プロジェクトへの貢献についての認識に基づいて活動できるようになり、認識の齟齬によるリスクを抑えることができます。
高得点のポイント
- 誰が主体かを示す「各メンバーが」が含まれていること
- 活動の根拠となる「本プロジェクトへの貢献についての認識」が含まれていること
- 本文の字句を用いて正確に抜き出されていること
(4)
本文中のcに入れる適切な字句を15字以内で答えよ。
模範解答
顧客への体験価値の提供
採点基準(配点 2点)
正確性(内容)(2点)
- 2点: 「顧客への体験価値の提供」を完全に抜き出している。
- 1点: 抜き出し箇所は概ね合っているが、一部の文字が欠落しているか、不要な文字が含まれている。
- 0点: 該当箇所を抜き出せていない。
解説
新事業開発において提供すべきものは、単なる機能ではなく、顧客にとって意味のある価値です。
本文中の文脈において、目的として設定されている 顧客への体験価値の提供 というフレーズを正確に読み取る必要があります。
高得点のポイント
- 「顧客への」というターゲットが含まれていること
- 新事業の目的となる「体験価値の提供」というキーワードが正確に抜き出されていること
設問3(2)は,正答率が平均的であった。今回出題した新事業に関するプロジェクトは,システムだけでなくビジネスも含めた幅広い検討が必要となる。参画するメンバーの役割も多様となるので,事前にリスクを把握して対応策を適切に講じることが重要である。